今2艇のカヌーを造っているルアオールで舟大工や漁師に尋ねてみた。「ここにはビヌワンで造った舟はありますか」と。返ってくる答えは「ビヌワンは舟の素材としてクオリティーの高いものではないので、ここには一隻もないと思うよ」
私たちはビヌワンの大木を見つけた時、大喜びした。土地の者たちも「この木は舟造りにはいい素材だ。インターロックと言って、繊維の走行が複雑で、一様ではなく強い。いい木を見つけた」と言われたが、実際に削っていって分かったのだが、軽いがもろい。それでは別の材質で直径2mもある大木が見つかるかというと、皆否定的だ。
ティプールやパラピは舟の素材として一級品だが、需要が多いために大きなものはすでに切りつくされた。ビヌワンは質が良くないために大木になるまで伐採されずに残っていたといえる。ビヌワンの選択は決して間違っていなかった。
しかし、樹齢何百年、高さ54mという大木だけに無傷であるわけがない。実際切り倒してみて、8.5mのカヌーを造ろうとして、基部から8.5mのところで切り込みを入れると、大きな穴があいていて、その中でキノコを育てていた。アリやシロアリ、ミミズなどの虫も飼っていた。あきらめようと思ったが、確認してみると、穴は大きいが、基部から7mのところまでは到達していない。7mならばぎりぎりセーフだ。舟大工の棟梁ハフディン氏は「中間に空洞がある場合はその上部に空洞が続いているが、基部に空洞が続いていることはない」とお勧めだった。希少な大木が見つかったことは相当ラッキーなことだ。これを有効に使うしかない。危うい面もあるが、この木を使ってカヌーを造ることに決定した。
[ 船体に大きな穴とひび割れが見つかった ]
一日かけて伐採した翌日から舟造りを始めた。棟梁が頭の中で描いた設計イメージを基にして穿ち、削り、舟の形を整えていった。短いが太く、丸木舟としては破格に高さのある船体が出来てきた。形が整ってくるうちに、大きな問題が浮かび上がって来た。8.5mのところにあった空洞は基部にはつながっていないのだが、大木の中心部分は私の指でほじくれるほどに腐食していた。虫も棲み、腐食土もできかかっている。中心部なので、船体の中心は問題ない。むしろ掘りぬく手間が減る。ところが先端と後部は大きな穴が開くことになる。舟大工たちは「そこに木塊を埋め込めば問題ないよ」というので、楽観的に考えていた。木を斧、鉈、チョウナという簡単な道具で、思い通りの形にしていく実力を見ていたので、彼らの発言には重みがあった。
ムハジールの森で粗削りが終わり、ルアオールで成形していくと、楽観的展望は悲観的展望に変わっていった。前方左と後方左に腐った部分があり、穴も空いている。その穴の周囲は広範囲にわたってぼろぼろで指ではがせるほどだ。左後方には内側から外側の写真が撮れるほどのひび割れもある。エポキシなど強力な接着剤を使えばなんら問題はない。舟大工たちも化学接着剤とドリルの利用を考えていたようだ。しかし私たちのコンセプトでは自然素材しか使わない。ドリルも使わない。どうしたらいいのか。私たちのコンセプトでこれらの穴がふさがるのか。大きな試金石のように思われる。特に前方左の穴が最も大きく、その周囲の腐食度も大きい。走行中に最も水圧のかかるところだ。ここが弱いとどっと水が船内に入り込んで、沈没間違いない。
この作業には大きなビヌワンの木塊が必要だった。ムハジールの森で刳りぬいている時から木塊の必要なのは分かっていた。そこで木塊を船体に使わないビヌワンの木から切り取って、ルアオールまで持って来た。しかし残念なことに計算違いがあった。ムハジールの森で想像していたより腐食度は大きく、持ってきた木塊では小さすぎるのだ。ムハジールで世話になった材木商のハサヌディン氏に大きな木塊を切って送ってもらうよう頼んだが、なかなか送ってこない。とうとう棟梁のカマ・ダルマは待ち切れず、また異なったサイズのものを送ってくるのではないかと心配し、自分でムハジールに乗りこんでいった。
以下写真を見ながら穴塞ぎの様子を解説する。