舟の船体には塗料を塗る。美的見地からも必要なのだが、表面を滑らかにして滑るように舟を走らす。さらに防水効果もある。私たちにはこの防水効果が重要だ。海水に漬けっぱなしの木造舟だ。塗装なしではじわじわと海水が滲みてくる。ペンキなどの化学塗料は使えない。天然塗料としてはコールタールがある。日本でも舟の塗装に使われていた。スラウェシ島でも南東部の島で手に入るという。しかし、自分たちで精製する術を知らない。
棟梁はペンキを使うつもりでいた。「ペンキを使えないんだ」と言うと「アイッ!」と驚きの声をあげる。今回の舟造りでは、のこぎり、ドリル、合成接着剤をはじめ使えないものが多い。それを確認するたびに舟大工たちは「アイッ!」とため息をついた。
それでも「レパがあるから大丈夫だろう」と楽観的だ。石灰とココヤシ油を混ぜたもので、ペンキが普及する前は使われていた。最近は使われていない。珊瑚を焼いて石灰を作っていたが、現在はルアオール周辺では作っていない。生きた珊瑚を取ってきて焼くことはもちろん、死んだ珊瑚を使うことも法律で禁じられている。波防効果が失われるからだろう。ルアオールでレパを自分のカヌーに塗っている者もいない。どうしたらいいものかと思案しているとリドゥワンが耳寄りな情報を持って来た。マカッサルとここの間のパレパレ近くで石灰工場を見たと言う。そこで石灰を造らせてもらおうと、車で向かった。
ルアオールから南におよそ4時間、国道沿いに石灰を焼いている窯が並んでいた。早速そのうちの一つを訪ね、自分たちで石灰を造りたい事情を説明した。すぐにこちらの要求を理解してくれ、石灰岩の採掘現場に連れて行ってくれた。
浅いが鍾乳洞のようになっていた。一部石化している隆起珊瑚だ。これを1.5トン譲ってもらった。この石を握りこぶしの大きさに叩き潰す。おばあちゃんが金槌で叩いている横で槌で叩いてみた。石化している部分が多くて硬くて重労働だ。直径およそ4m、深さおよそ10mある縦穴の窯に薪と石灰岩を交互に7層ずつ入れて4日間燃やす。私たちの石灰岩は量が少ないので2層だけだ。4日後に焼き上がるというので、その頃再び訪れることにした。
4日後、私たちの石灰岩は焼きあがっていた。最後に水をかけるのだが、職人が既に掛け終えていた。焼けた石灰岩(生石灰)に水をかけると化学反応を起こして、石灰(消石灰)ができる。
職人がまだ温かい生石灰の塊をもってきてくれ、水をかけた。しばらくして塊が崩れ、粉になっていった。その粉をピックアップしようとしたが、熱くて持てない。生石灰が消石灰になる時に化学反応を起こして熱を出すのだ。先史時代から知られていた化学反応だという。この消石灰に水を加えたものが漆喰で日本では城壁を含めた建物に利用され、マヤでは水槽を作った。
ここではこの消石灰にココナツ椰子の油を混ぜて使う。塗装だけでなく、ひび割れや補修した穴の隙間の充填にも使う。この目止めにはコットンの木からとった綿も混ぜる。
以下、消石灰作りとココヤシ油作り、レパ作りと目止めの作業を写真で紹介する。