2011年の航海再開に向けて 2011/2/9

 台湾に来ている。5月15日から再び南風が吹くのを待って、フィリピンから沖縄への航海を再開しようと思っていた。黒潮はいつも南に向かって流れているが、黒潮の上空を吹く風は9月から4月までは北風が吹いている。前方から吹いてくる風には対処できない私たちのカヌーでは、5~8月が航海の出来る唯一のチャンスなのだ。ところが昨年は5月になっても、いい風が吹いてくれなかった。6月中旬になって初めていい風が吹き始めたのだ。バシー海峡(フィリピンと台湾の間の400km)は6月中に渡ったほうがいいと言われていた。昨年は出航後もいい風が吹かず、カヌーは順調に進まず、6月中にバシー海峡を渡ることが難しくなった段階で、安全対策で協力してもらっているフィリピンの沿岸警備隊の司令官から中止勧告が出た。航海の安全を考えて、今年に懸けることを決断した。ところが司令官に「今年はやめて、来年にかけます」と言った翌日から絶好の南風が吹き始めた。

 マニラにいる司令官に「このまま航海を続行したい」と申し出たが、安全対策や許可関係を中止を前提に動き始めたので、続行の可能性を否定された。結局あきらめて6月20日にカブガオという、ルソン島の最北端までおよそ150kmのところで航海を断念した。

 一昨年も昨年も、台湾を通過する予定で台湾政府に世話になった。台湾政府の新聞局が他の省庁、地方行政機関に連絡し、すべての手続きを済ませて待っていてくれたのだが、2年続けて到達できなかった。「計画性のないプロジェクトですね」と言われてしまったが、確かに計画性のないプロジェクトだ。風次第の航海なので仕方がない。

 今回はこの2年間手続きをするのに世話になった翻訳家、通訳の何月華さんと新聞局に挨拶し、今年の手続き進行のためにやって来た。何さんは司馬遼太郎さんの「街道を行く、台湾紀行」でも通訳をしたという。今年も「計画性のないプロジェクト」に全面的に協力してくれることになった。

 今回の台湾訪問のもう一つの目的は台湾側のバシー海峡の海の状態を見たかったからだ。

バシー海峡を望む港町に来たことによって、コース、日程を変えなければならない情報を得た。日本製の新幹線で2時間、そこからバスで2時間、台湾本土最南端墾丁に着いた。4時間で北から南端まで来てしまった。台湾と比べれば日本は大きいと感じる。

 墾丁でカジキマグロを突きんぼ漁と言う銛で捕っている漁師と出会った。呉さん、小柄だが、日に焼け精悍な61歳だ。10年前までフィリピン領まで入り込み、魚を捕っていた。バシー海峡の島々で行ったことのない島はないという。

 今回、出発地ルソン島北部を5月15日に出発することにしたのは2つの理由があった。

1.確実に南風が吹き始める。
2.沖縄の梅雨明け近くに台湾から沖縄に渡れる。

しかし、呉さんによれば4月から南風が吹くという。5月中旬までは弱い南東の風が吹き、それ以降は強い南西の風が吹く。安全面を考えると5月初めにバシー海峡を渡ったほうがいいという。梅雨は風を伴わない雨なので問題ないのではないかと言う。私たちのカヌーの帆は濡れに弱いので心配だが、バシー海峡を安全に渡ることを最優先にしたいので5月1日に出航することにする。台湾北部は梅雨があるが、台湾南部やバシー海峡は梅雨がない。

 コースも変更をアドバイスされた。「フィリピン最北端の島ヤミ島から台湾本島に来るのは難しい。強い潮流が西向きに吹いているので、東の沖にある蘭與島を目指したほうがいいよ。エンジン付きの漁船でも流されるんだ。墾丁から蘭與島までは4時間で行けるけれど、蘭與島から本島最南端墾丁までは8時間かかるからね」

 結局今年の航海は5月1日発に変更することにした。