「海のルート」再出航に向けて 2010/4/7

 3月はインドネシアで漂流民バジャウと一緒にいたが、今はフィリピンにいる。パラワン諸島の北端、ブスアンガ島のコロン、昨年4月にインドネシアを出航した縄文号とパクール号が、4か月間航海して着いたところだ。

 ここにカヌー2艇は大きなマンゴの木の下に作った簡単な小屋掛けの中に格納してある。そのチェックにやって来た。

 5月中旬の出航前に修理しなければならないところは数か所ある。特に心配していた左前後部の元々腐っていて穴埋めをした部分だが、穴埋めした周囲がスカスカになっていた。しかし想定内の傷みなので、出航前には修理できるだろう。

 新しい住民が住みついていた。やや太めのヤモリのつがいだ。ゴキブリ、アリ、シロアリ、キノコ、コオロギ、フジツボなどの貝類など、もともと同行者はいたのだが、ヤモリは初めてだ。精霊が送り込んだのだろうか。シロアリとちがい排除する必要はないので、日本まで同行したいが、置いて行かなければならない。つがいなので、日本で繁殖して沖縄固有の動物を駆逐する恐れがあるからだ。

 パラワン諸島の北端ということは、かつて氷河時代にインドシナ、マレーシア、インドネシア東部、パラワン諸島が陸続きで「スンダランド」という大陸棚を形成していた時の最北端だ。

 昨夕、高台に登って、太陽が沈んでいく様子を眺めていた。太陽の手前にいくつかの島が連なっていた。パラワン本島の北は小さな島が連なった群島を形成している。氷河時代が終わり、地球の気温が暖かくなり、海面が高くなった時、いくつもの島に分かれていった。いずれ次の氷河時代がくれば、またスンダランドは復活するかもしれないが、今は人工的なエネルギーの使いすぎも加わって海水面は上昇している。

 夕刻時、空の色もそれを映す海の色も刻々と変化していく。太陽に向かっていると海にギラギラ反射して眩しい。やがてうっすらとある雲がピンクからオレンジへと変わっていく。水平線近くにやや厚い雲の層があり、そこに太陽が沈んでいった。太陽は隠れてしまうかと思ったが、雲は薄いようで、熟した柿のような色になった。鏡のような海面も落ち着いた黒ずんだオレンジ色になった。

 ゆっくりと水平線に太陽が沈んだ後、雲はさらに濃いオレンジ色になり、空は青みを増していった。次にうすい紫になった。海と島影の境がまだ分かる間に、濃紺の空に一番星の宵の明星が現れた。

 この光景は、スンダランドが水没して以来数千年間、太古の人々も見てきた、変わらぬ光景のはずだ。