出航を阻むもの 2011/5/7

 フィリピンのルソン島北部、南イロコス州のダルダラートという半農半漁の穏やかな村にいる。後半は独裁者になったマルコス大統領夫妻は民主化運動の高まりの中で、アメリカに逃亡した。その時、数千足の靴を持っていたことで騒がれたイメルダ夫人は、この辺の貧しい家庭で生まれてトップレディになった。民主化運動の旗手アキノ氏は暗殺されアキノ夫人が大統領になったが、今はその息子が大統領になった。マルコス元大統領は亡くなったが、イメルダ夫人は帰国し、国会議員としてカムバックしている。息子たちも政治家として活躍している。犯罪人のように追われたが、彼女の生地では圧倒的な人気だ。

 縄文号とパクール号は4月28日に出航し、6月初めには沖縄に着く予定で準備を進めてきた。しかし、いまだにダルダラートにいる。明日出航できても10日遅れだ。その理由は以下だ。

1.今年初めから進めている、フィリピンのコーストガードの航行許可が出ない。昨年、一昨年に許可証を出してくれた司令官は部署が変わってしまった。私たちの今回航行する地域の司令官は女性だが、面会さえしようとしない。「部下に出してもらえ」と言うが部下も避けている。国境警備は彼らの任務で海洋通行の許可裁量権を持っている。

2.台湾領内の航行許可がまだ出ていない。昨年から手続きを進めていて、大方問題はないのだが、「インドネシア人クルーの海外旅行保険証はインドネシア語で書かれているので、英語に翻訳し、在日インドネシア全権大使にその保険証が本物で、英訳が正しいかを確認してもらい、その証明書を提出するように」という難題を突き付けてきた。結構ハードルの高い要求だ。もし可能でも、かなり時間がかかるだろう。

 その他、撮影隊2名と彼らの機材、私たちのカヌーのスペアパーツを乗せる伴走船のエンジンの調子が悪い。

 私たち自身はいつでも出発できる準備ができていて、実は出発直前にやるイスラム式の儀式は済ませてしまった。2隻のカヌーに次のように分乗する。縄文号:グスマン(キャプテン)、サダール、渡部、佐藤。パクール号:ジャビル(キャプテン)、ラテイフ、イルサン、ダニエル、前田、関野(総隊長)。

 3月11日、東北大震災があった日の早朝、元キャプテン、サイヌデインが漁に出ていて遭難死したので、サダール氏が新クルーとして参加する。ダニエルの兄でベテラン漁師だ。

 海のグレートジャーニーも、太古の人々にはなかった国境の壁が大きく立ちはだかっている。