新しい旅(グレートジャーニー・ジャパン+海のグレートジャーニー)2004/07/01

ここ33年間、半分以上の期間を海外の、電気も上下水もないところで、土地の人に泊めてもらい、できる限り同じものを食べて暮らしてきました。しかし自分の足元、あるいは日本についてあまりにも無知である事を痛感しました。学生時代に国内の山を登り、川を下りましたが、流域や山麓の人々と交流することありませんでした。

グレートジャーニー終了後は日本を知ろうと足元を見て歩いています。二風谷のアイヌ、山形の鷹匠、新潟のマタギ、東京西部の農林業に従事している人たちと交流しています。その中で最も力を入れているのは私の地元、東京下町での職人達との付き合いです。

私の生まれた下町に全国のブタ革なめしの8割をしている地域があります。そこで体験労働をしています。アンデスやアマゾンでも「泊めてください。食べさせてください。何でもしますから」と頼み込んで居候させてもらいました。仲良くなってから話を聞き、写真を撮ったのです。日本でも同じ流儀ですることにしました。

木下川のなめし皮工場は屠場から運んできた毛と脂のついた皮を、様々な工程を経て、伸縮性のある、色つやをつけた革にする工場です。生の皮は、乾くとするめのように硬くなります。逆に濡れると生皮に戻って腐りやすくなるのです。熱にも弱いままです。原皮のままでは利用価値はありません。しかし、皮を様々な薬品を溶かした液に漬けてドラムに入れて回し、乾かし、引っ張ったり、揉んだりして、やわらかくて腐り難く、熱にも水にも強い革にします。およそ2~3週間をかけた様々な工程を経て進められます。

今は不景気で仕事が減っています。かつて中国、台湾、韓国などに日本人技術者が指導に行きました。それらの国が技術を習得してしまうと、そこで加工された革製品が格段の安価で輸入されてきます。このような産業の空洞化、外国人労働者、職人の高齢化、差別など様々な問題を抱えています。日本の一端が凝縮して見えてきました。今後も油脂工場、屠場、養豚場などで働くつもりです。さらに日本がクリアに見えてくると思います。

足元から日本を見ると共に、7月上旬から日本人のやって来た道を辿る旅に出ます。考古学、自然人類学、遺伝学などの最近の成果から3つの主要ルートが考えられます。

シベリアからサハリン経由で北海道へ。
ヒマラヤの南にルートをとった者たちはインドシナ、インドネシア、そしてオセアニアに拡散しました。この旅路が「海のグレートジャーニー」にあたります。その一部が黒潮に乗って日本にやって来ました。
そして中国大陸からダイレクトに又は朝鮮半島を経由してやって来たルート。日本は人も文化もけっして単一でありません。実に多様性に富んでいます。様々な民族が混じりあい、いくつもの文化を作りだしました。
今回も自分の腕力と脚力にこだわり、寄り道にたっぷりと時間をかけて、6年ほどかけて歩くつもりです。いままで縁の薄かった東アジア、東南アジアを歩いて、見ることが出きそうです。そして少しでも日本人、また自分がクリアに見えればいいなと思っています。

最初は北方ルート、シベリアを移動し、夏の間に間宮海峡に達する予定です。海峡が結氷するまでは狩猟民たちを訪ね歩き、結氷したら徒歩で間宮海峡を横断するつもりです。宗谷海峡を渡って、北海道上陸は来年の夏になるでしょうか。